箏と篳篥、ピアノや弦楽器が織りなす雅やかな響き。
内田拓海さんが「コイ、コガレ」から見つめた、時間への憧れ。
『時の憧憬』——内田拓海さんが見つめた「時間」
『時の憧憬』は、藝祭2026のために作曲された作品です。
作曲:内田拓海(大学院美術研究科博士後期課程美術専攻デザイン研究領域1年)
ここ数年、藝祭の公式テーマ楽曲は学生からの公募・投票によって決定されており、2026年は4月24日に募集が告知され、5月11日が締め切り。限られた制作期間の中で提示された条件は、今年度のテーマである「コイ、コガレ」という言葉から着想を得た作品であることでした。
内田拓海さんは、まず自分にとって「コイ、コガレ」とは何なのかを考えたといいます。
その言葉だけを見れば、恋愛や誰かを慕う気持ちを連想します。
しかし、藝祭のテーマとして考えると、そこには単なる恋慕を超えて、藝術に向ける熱情や、まだ見ぬ未来への期待も重なって見えたそうです。
一方で、内田拓海さんにとって「コイ、コガレ」は、二度と戻ることのできない過去への眼差しや憧れとしても響きました。
その背景には、東京藝術大学の学部時代後半をコロナ禍の中で過ごした経験があります。
過ぎ去った日々や青春。制作に没頭していた瞬間。友人たちと朝まで語り合った時間。
今はもう失われ、同じ形では二度と手に入れることのできない時間が、記憶の中で輝いている。
内田拓海さんは、そこから「作ること」と「失うこと」を見つめています。
私は、人が生きるということは、何かを作ることであり、同時に何かを失っていくことでもあると思っています。
生まれてくる生命もあれば、消えていく命もある。私たちはいつも循環の中で生きています。芸術をするということも、無くしてしまうからこそ、作ろうと思うのかもしれません。
— 内田拓海さん
そして、一年に一度、わずか3日間だけ現れる藝祭。
内田拓海さんは、それを「夏の狂乱、熱気の渦巻く一幕」と表現しています。
始まり、熱を帯び、そして終わっていく。
限られた時間だからこそ、そこには取り戻すことのできない瞬間が生まれます。
「自分にしか表現できない『コイ、コガレ』をもって、藝祭にふさわしい音楽を作ろう」。
そう思ったとき、内田拓海さんはいつの間にかピアノの前に座り、これから生まれる曲の旋律を弾いていたといいます。
「時の憧憬」とは、時間への憧れ。
内田拓海さんは、この曲のタイトルについて、こう語っています。
『時の憧憬』とは、時間への憧れです。
そして時間とは、人と人とをつなぎ、命を生み出し、やがて消えていく光や祈りをも見届けるものだと思います。
楽器によって紡がれ、歌い繋がれていくメロディは、いつしか泡沫のように消えていきます。そして、訪れた静寂の中から、また次の響きが生まれていく……。
私はこの楽曲を、今、この時に、皆さまと共に聴くために作曲しました。
ただこのトキに コイ、コガレ
— 内田拓海さん
時間は、人と人をつなぐ。
けれど、どれほど大切な瞬間であっても、時間は止まることなく過ぎていきます。
音楽も同じです。
演奏された音は、その瞬間に生まれ、空間に響き、そして消えていく。
けれど、音が消えたからといって、すべてが失われるわけではありません。
誰かの胸の奥に残響として残り、別の記憶や、また次の時間へとつながっていく。
『時の憧憬』というタイトルと、この楽曲の響きが強く結びついて感じられる理由が、内田拓海さんの言葉の中にあります。
『時の憧憬』を聴く
内田拓海さんの言葉を知ったうえで、あらためて『時の憧憬』を聴いてみます。
藝祭2026テーマ楽曲『時の憧憬』
Comp.:内田拓海
Cond.:内田拓海
Pf.:中西桃萌
Vln.:乾夏菜、及川悠介
Vla.:宮下亮明、向井樺音
Vc.:豊嶋優月、宮景琢充
Fl.:出口夢果
Cl.:吉村錬
篳篥:宮下亮明
箏:鹿野竜靖
雅やかな響きの向こうに、人が集う情景が見える。
『時の憧憬』を聴いていて特に印象に残るのが、曲全体を包む雅やかな空気です。
箏と篳篥による日本的な響きには、どこか雅楽を思わせるような古雅な気配があります。
そこへピアノ、弦楽器、フルート、クラリネットが加わり、異なる音色がひとつの時間の中で交わっていきます。
けれど、聴いていて浮かんでくるのは、楽器そのものだけではありません。
静かな場所にひとつの音が生まれる。
そこへ、もうひとつの音が重なる。
少しずつ響きが広がり、一人だった場所へ誰かがやってきて、さらに誰かが加わる。
いつしか多くの人々が、同じ場所、同じ時間に集っているような情景が見えてきます。
藝術をつくる人。
それぞれの時間の中で、作品と向き合う。
音楽を奏でる人。
その瞬間にしか生まれない響きを共有する。
場所をつくる人。
人と藝術が出会う場をつくり上げる。
そこを訪れる人。
まだ知らなかった作品や誰かと出会う。
普段はそれぞれ別の場所で、別々の時間を生きている人たちが、一年に一度、同じ場所に集う。
『時の憧憬』から感じられる人々が集う情景と、藝祭という場所が自然に重なっていきます。
一年に一度だけ現れる場所——藝祭2026
東京藝術大学の「藝祭」は、学生たちが主体となってつくり上げる大学祭です。
学生による作品展示や演奏、さまざまな企画に加え、御輿や法被など、長く受け継がれてきた藝祭ならではの文化があります。
2026年の開催は、9月4日(金)から9月6日(日)までの3日間。
そのテーマは、
「コイ、コガレ」
そして、その3日間のために生まれた音楽が『時の憧憬』です。
作品をつくってきた時間。
音楽を練習してきた時間。
藝祭をつくるために人と人が話し、考え、準備してきた時間。
そして、その場所を訪れる人たちが過ごす時間。
それらが重なり合い、2026年の藝祭という一度きりの時間が生まれます。
フィナーレで『時の憧憬』が、もう一度生まれ変わる。
そして『時の憧憬』には、もうひとつ注目したい場面があります。
藝祭最終日の2026年9月6日(日)。
東京藝術大学 総合工房棟前野外ステージで行われる「藝祭2026 フィナーレライブ」で、『時の憧憬』が生演奏される予定です。
原曲は室内楽編成ですが、フィナーレでは宮下亮明さんの編曲によるビッグバンド版として演奏されます。
演奏を担当するのは、Manto Vivo Jazz Orchestra。
静かな室内楽として生まれた音楽が、藝祭の最後には多くの演奏者による大きな響きとなり、観客と同じ場所で共有される。
ひとつの旋律が生まれ、誰かへ渡り、形を変え、また別の響きになる。
それは、内田拓海さんが語った「訪れた静寂の中から、また次の響きが生まれていく」という『時の憧憬』の考え方そのもののようにも思えます。
GEISAI 2026 FINALE LIVE
藝祭2026テーマ楽曲『時の憧憬』生演奏
2026年9月6日(日)
開場 17:15 / 開演 17:45 / 終演予定 19:00
東京藝術大学 総合工房棟前野外ステージ
作曲:内田拓海
ビッグバンド版編曲:宮下亮明
演奏:Manto Vivo Jazz Orchestra
藝祭2026 開催概要
開催時間、各企画、入場方法、当日の注意事項などの最新情報は藝祭2026公式サイト・公式SNSをご確認ください。
Credit
藝祭2026テーマ楽曲『時の憧憬』
Comp.:内田拓海
Cond.:内田拓海
Pf.:中西桃萌
Vln.:乾夏菜、及川悠介
Vla.:宮下亮明、向井樺音
Vc.:豊嶋優月、宮景琢充
Fl.:出口夢果
Cl.:吉村錬
篳篥:宮下亮明
箏:鹿野竜靖
Staff
Recording Chief:大形駿
Recording Engineer:前田夏歩、繁澤慧
Mixing Engineer:大形駿
Mastering Engineer:繁澤慧
Recording at 東京藝術大学 千住校地
Movie Director:前田夏歩
Camera Operator:前田夏歩、落合陽菜
MV Editor:前田夏歩
本記事は東京藝術大学 藝祭実行委員会の許可を得て、藝祭2026の公式情報・公式素材をもとに制作しています。










